【味覚障害】ある日突然、味が分からない⁈原因やメカニズム、治療法

食べ物を何を選んでも美味しさを感じられない、全く風味を感じ取れない、食事をしていない時でも口内に不快な味がするなど、味覚に異常や不快感を覚える状態を味覚異常と称します。

この現象は、年齢の増加や過剰なストレスなどの社会的背景による影響も関連しており、味覚異常を抱える人の数は次第に多くなっているそうです。この記事では、味覚異常が生じる原因やその働きについて解説します。

味覚障害の概要

「味覚」というのは、通常、甘い、しょっぱい、酸っぱい、苦い、おいしい(うまみ)の五つの基本的な味を指します。一方、イチゴやバナナ、コーヒーや紅茶の特有の味は「味覚」ではなく、「風味」と言われ、これには「嗅覚」が大きく寄与しています。これら二つの感覚は明確に分けるのが難しいですが、検査を通じてどちらに問題があるかを判断します。

病院を受診される患者さんの中には、原因がはっきりしない舌の痛みを訴える方が少なくありません。味覚が正常に機能しない場合、食事への満足感が得られず、結果として食べる量が減り、体力や免疫力が落ち、ストレスを感じやすくなります。食事の偏りや味付けが強くなる傾向もあり、塩分や糖分の過剰摂取、食品の新鮮さの判断が難しくなるなどの問題が生じることもあります。

味覚障害は、舌や口の中の問題だけでなく、体全体の健康状態に起因することもあります。年齢が上がるにつれて味覚が鈍くなることはありますが、適切な治療を受ければ改善する場合もあるため、異変を感じたら早めに専門医を訪れることが勧められます。

味覚障害の症状と考えられる原因

味覚障害には様々な症状があり、これには味覚の減退や完全な喪失だけでなく、味が普段と異なる異味症、何も食べていないのに味が感じられる自発性異常味覚、味を通常よりも強く感じる味覚過敏、食べ物を受け付けない悪味症などが含まれます。最も一般的な原因は、味を感じるための舌の味蕾の障害です。

これらの原因には、特に亜鉛の欠乏が挙げられますが、鉄分やビタミンの不足によっても起こることがあります。また、舌炎、風邪のウイルス、全身の疾患、あるいは薬剤反応による細胞の障害が原因となることもあります。

味覚の感覚を司る末梢神経の障害には、神経系の疾患、手術や歯科治療後の医療行為による影響があります。中枢神経の障害の場合、脳の腫瘍、血管障害、頭部への外傷、また認知症や加齢、精神的な疾患などが原因となります。さらに、ストレスが原因で起こる心因性の味覚障害も、近年では多く見られるようになっています。

加齢に伴う機能衰退/若者もストレスや不均衡な食生活が原因で味覚障害発症

■亜鉛を多く含む食べ物の一例

私たちの味覚を感知する細胞は、舌の表面や根元、さらには上顎の内側(軟口蓋)に点在する味蕾によって構成されています。

食べ物や飲み物からの味の情報は、味蕾によってキャッチされ、その信号が神経を通じて脳に伝達されます。これにより、甘さ、苦さ、酸っぱさ、しょっぱさ、うまみといった5種類の基本的な味を識別することが可能になります。

年齢が上がるにつれて味蕾の数が減少すると言われており、特に舌の奥の部分に位置する乳頭の一つあたりの味蕾の数が、若年時と比較して高齢になると約35%減少するとの研究結果もあります。

加齢に伴う味覚の変化は、塩味の感知能力の低下などの味覚異常を引き起こし、その結果、高齢者の間でこのような問題が増えていると考えられています。加齢だけでなく、味覚機能そのものも年齢と共に低下し、味覚障害のリスクを高める要因となっています。

ただし若者でも、様々なストレスや偏った食生活が原因で味覚障害が発生することがあります。特に、偏食による亜鉛の摂取不足は重要な問題です。

味蕾は定期的に更新され、このプロセスには亜鉛が必要です。亜鉛不足によりこの新陳代謝が乱れると、味覚障害を引き起こす可能性があります。

また、鉄不足が鉄欠乏性貧血につながり、これが味覚障害の発生に影響することもあります。この状態では、疲労やめまいの兆候の前に舌の表面が赤く滑らかになることがあります。

ビタミンの不足、特にビタミンB12の欠如は、舌の粘膜の委縮を引き起こし、味覚障害を誘発することがあります。また、口内炎や舌炎を引き起こし、味覚の感受性を低下させる可能性があるため注意が必要です。

栄養素の欠乏は血液検査で確認でき、亜鉛不足が確認された場合は補給が推奨されます。亜鉛を豊富に含む食品を積極的に摂取することも、味覚障害の予防に役立ちます。

味覚障害の診断に用いる検査方法

味覚障害の診断に用いる検査方法には「電気味覚検査」と「ろ紙ディスク法」があります。

「電気味覚検査」は、舌に電極を置き、異なる強さの電流を通すことで、微弱な電気刺激を利用して味覚の反応を確認します。

一方、「ろ紙ディスク法」では、甘味、塩味、酸味、苦味という4つの基本的な味を含む溶液をろ紙に染み込ませ、それを舌に乗せることで、患者がどの濃度で各味を識別できるかを測定します。各味には5つの異なる濃度が設定されており、正確に味を感じ取ることができる濃度を特定します。

味覚障害の治療について

亜鉛の欠乏は、細胞の再生サイクルが遅れたり、酵素活動が弱まり、味覚感受性が落ちることが明らかにされています。そのため、細胞に問題があると疑われる場合には、通常、亜鉛を補給する治療を施します。鉄分が不足している場合には鉄補給薬を、ビタミンが足りない時にはビタミン剤を与えることで、多くの場合迅速に回復が見込まれます。 治療に際しては、問題となる薬の使用を停止したり、全身の健康状態を管理することが重要ですが、停止が難しい薬や管理が複雑な疾患も存在します。特定できない原因による味覚障害の場合には、漢方薬を使った治療が行われることもあります。 心理的な要因や精神的な病気が影響している場合には、安定剤や抗うつ剤、漢方薬を使用した治療が施され、必要に応じて精神科や心療内科を紹介する場合もあります。

食事療法を通じての治療

食事療法を通じて治療を行います。これは、亜鉛を豊富に含む食品を積極的に摂取することを意味します。 亜鉛が豊富な食品には以下のようなものがあります。

  • ごま
  • うなぎ
  • 牡蠣
  • 卵の黄身
  • アーモンド
  • チーズ
  • 抹茶
  • 豆腐
  • 大豆
  • 海藻類

亜鉛の摂取と同時に、ビタミンCやタンパク質の摂取も推奨されます。これにより、効果が向上します。 ビタミンCを豊富に含む食品:

  • パイナップル
  • みかん
  • 海藻類
  • ゴーヤ

タンパク質を豊富に含む食品:

  • 鶏のササミ
  • 鶏のもも肉
  • 牛乳
  • レバー

これらの栄養素をバランス良く組み合わせることで、健康状態の改善に役立ちます。

新型コロナウイルス感染症と味覚異常について

新型コロナウイルス感染症では、味覚の異常がしばしば報告されています。 これらの症状の多くは、嗅覚の障害に伴う風味の認識不全に起因すると思われますが、直接的な味覚の異常も発生します。

新型コロナウイルスは、その表面に存在するスパイクプロテインがアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合し、TMPRSS2やFURINなどのプロテアーゼの作用によって細胞への侵入が促進されるとされています。口腔内の粘膜や味覚細胞にもACE2、TMPRSS2、FURINが存在することが明らかにされています。

多くの場合、症状は数日から一ヶ月程度で自然に改善されるとされていますが、長期化する場合には適切な治療が求められます。 このため、嗅覚障害と味覚障害の区別をつけるために、両方の検査を行うことが重要です。

注意すべき点

亜鉛の摂取不足は、味覚障害のみならず、免疫機能の衰えや皮膚、爪に起こるトラブル、子どもの場合は成長の遅れといった問題を引き起こす可能性があります。

バランスの取れた食生活に改善し、味覚障害を解消しましょう。

厚生労働省によると、成人男性の場合は一日に12mg、成人女性は9mg、妊婦は12mgの亜鉛摂取が推奨されています。

味を感じない、舌の感覚に異常を感じるなどの症状がある場合は、地域の耳鼻咽喉科での診察をお勧めします。

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